「手続き、完了しました。……おめでとうございます。今日からdayu様は『マイスター』、蛍様は『セージ』ですね」
王都の冒険者協会の窓口。
受付嬢の明るい声と祝福の言葉を受け取った二人は、ギルドハウスの円卓に戻ると、さっそくステータス画面を開いていた。
「よし、無事に転職も終わったし、スキル構成を考えようぜ」
「うん。塔に行くんだよね? じゃあ、また『ソイルスパイク』と、回復用に『ヒール』かな」
「俺も、今までの攻撃スキルに薬のバフスキルもセットするか」
二次職となり、戦力の幅が広がったことに胸を躍らせながらスキルのセットを進める。
その時、二人の背後で、ギィィッと重い扉が開く音がした。
「あんたたち、転職できたの???」
そこに立っていたのは、紫の巨大な棺を背負ったアークメイジ・みんだった。
「あ、はい! しました!」
二人が元気に答えると、みんは深く息を吐いた。
「……ああ」
「どうせあんたたちのことだから、ウィザードとプリーストを経由して、すぐセージに転職したんでしょう」
「はい!」
「……でしょうね」
「何か問題が?」
「大問題よ」
みんは腕を組み、冷ややかな視線を送る。
「プリザーブ、見てみなさい」
「……?」
二人は言われるがまま、再びステータス画面に目を落とした。
「…………」
「…………」
「……ない」
「でしょうね」
「なんで!?」
頭を抱える二人に、みんは淡々と事実を突きつける。
「セージになった時点で、ウィザードとプリーストのスキルは全部カレントで使える」
「はい」
「だからプリザーブに入れる必要がない」
「……え」
「つまり、あんたたちは」
「はい」
「プリザーブに入れるスキルを一個も持ってない状態で二次職になったのよ」
「「えええええ!?」」
マイスターになったdayuも、ブラックスミスとファーマシストのスキルがすべてカレント枠に収まってしまい、全く同じ状況だった。
みんはニヤリと笑う。
「で?」
「で?」
「プリザーブ、何に使うつもりだったの?」
「……考えてませんでした」
「でしょうね」
ぐうの音も出ない二人に、みんは呆れたようにため息をつき、再び腕を組んだ。
「アンタたち、今、二次職になったわよね。このまま戦闘になった時のことを考えなさい」
「戦闘に……」
二人の脳裏に、先日フォルドエイクの塔で経験した死闘が蘇る。
水属性のモンスターの群れに対し、えるやりょっふぃーのサポートがなければあっという間に押し切られていたギリギリの戦い。
「どう?? どんなスキルがあったら、もっと戦闘を楽に進められる?? ステータスがどう変わったら、危なくなくなる??」
みんの問いかけに、dayuと蛍は自分たちの弱点を必死に探る。
「……塔の敵の攻撃、かすっただけでも致命傷でした。もし基礎的なHPが高ければ、一撃でやられる危険が減ります」
「俺もだ。火力ばっかり気にしてたけど、前衛に立つならもっと打たれ強くなるためのパッシブスキルが必要だ」
二人が自ら導き出した答えに、みんは満足げに頷いた。
「じゃあ、それを補えるスキルを覚えればいい」
「どうやって?」
「別の職業をやるのよ」
「……別の職業?」
「ソードマン」
「え」
「HP欲しいんでしょう?」
「はい」
「じゃあ『耐久力』」
「……」
「レベル一から」
「…………」
「一から?」
「一から」
その事実に、二人の顔からスッと血の気が引いていく。
さらにdayuが、分厚い職業ツリーの資料をめくり、顔面を蒼白にさせた。
「……待ってください」
「何?」
「俺、匠を目指してるんですけど」
「知ってるわ」
「アルケミストが必要です」
「そうね」
「その前に……シェフ?」
「そうね」
「…………」
「…………」
「みんさん」
「何?」
「助けてください」
「だから来たのよ」
みんはチョークを取り出し、黒板に流れるような手つきで要項を書き殴り始めた。
「考える力はついた」
「職業も決めた」
「役割も理解した」
「――じゃあ次はレベルね」
あまりにも極端で暴力的なステップアップに、二人は思わず叫んだ。
「「順番がおかしくありませんか!?」」
「おかしくないわ」
みんは一切の表情を変えず、冷徹な事実を突きつける。
「レベル不足で装備できない」
「レベル不足でスキル取れない」
「レベル不足で職業解放されない」
「だからレベル」
極限まで無駄を削ぎ落とした効率主義者の真理。
それを見ていた先輩のりょっふぃーとえるは、苦笑いを浮かべて顔を見合わせた。
「反論できない……」
「みんさんらしいね……」
だが、二人の新人もここで引き下がるわけにはいかない。つい先日、みん自身からこってりと絞られた「あの言葉」を盾にする。
「で、でも! みんさん言ったじゃないですか! レベルは強さじゃないんですよね!?」
必死の反論。しかし、全職業・全スキルをカンストしている究極の探求者は、ニヤリと不敵に笑ってこう言い放った。
「ええ。レベルは強さじゃないわ」
「――でも、無いよりあった方がいいわ」
「「その通りなんですけどぉぉぉ!!」」
ぐうの音も出ない究極の正論に、dayuと蛍の叫び声がギルドハウスに響き渡った。
***
そこからの数日間は、まさに『地獄の超速ダイジェスト』だった。
みんは再びレベルシンクロを活用し、手加減一切なしの特攻理論で高レベルモンスターを乱獲していく。
「はい次! dayuはシェフのレベル上げるわよ! フライパンで敵を殴りなさい!」
「ひぃぃぃ! 俺のSTR極振りがフライパンで火を吹くぜえええ!」
「蛍はソードマン! レベルを上げて『耐久力』を覚えなさい!」
「で、でもソードマンだとSPが少なくて魔法が撃てませんー!」
「プリザーブにプリーストの『マナの源泉』とウィザードの魔法をセットして戦うのよ!」
「も、もう自分が何職をやってるのか分かりませんんん!」
泣き叫ぶ新人たちを引きずり回し、転職とレベリングの果てしないループを、みんは圧倒的な暴力(ハック)でゴリゴリと短縮していく。
そして――。
数日後。ギルドハウスのロビーには、ボロボロになりながらも、三次職への道を繋ぐ『二つの二次職』の基盤を完成させ、必要なプリザーブスキルをすべてかき集めた二人が倒れ伏していた。
「……終わっ……た……」
「もう、レベルアップの……ファンファーレの音が……耳から離れません……」
「ふん。まぁ、基礎工事としてはこんなもんね」
みんは満足げに頷くと、さっさと研究室へと戻っていった。
二人のステータスには、いくつもの職業を経て三次職へ至るための道筋が、ようやく形になっていた。
つい数日前まで、何をプリザーブに入れればいいのかすら分からなかった二人。
今はその画面に、必要なスキルが並んでいる。
そして――。
二人はようやく、本当のスタートラインに立った。
時を同じくして、王都の周辺ではある『不気味な噂』が囁かれ始めていた。