MMORPG『エリシアオンライン』アーカイブサイト開発記

ガラケー時代の本格3DMMO『エリシアオンライン』のデータベース&アーカイブサイトを個人開発する記録と、まったりプレイ日記。

第17話:無いよりあった方がいいもの

「手続き、完了しました。……おめでとうございます。今日からdayu様は『マイスター』、蛍様は『セージ』ですね」

王都の冒険者協会の窓口。
受付嬢の明るい声と祝福の言葉を受け取った二人は、ギルドハウスの円卓に戻ると、さっそくステータス画面を開いていた。

「よし、無事に転職も終わったし、スキル構成を考えようぜ」
「うん。塔に行くんだよね? じゃあ、また『ソイルスパイク』と、回復用に『ヒール』かな」
「俺も、今までの攻撃スキルに薬のバフスキルもセットするか」

二次職となり、戦力の幅が広がったことに胸を躍らせながらスキルのセットを進める。
その時、二人の背後で、ギィィッと重い扉が開く音がした。

「あんたたち、転職できたの???」

そこに立っていたのは、紫の巨大な棺を背負ったアークメイジ・みんだった。

「あ、はい! しました!」

二人が元気に答えると、みんは深く息を吐いた。

「……ああ」
「どうせあんたたちのことだから、ウィザードとプリーストを経由して、すぐセージに転職したんでしょう」
「はい!」
「……でしょうね」
「何か問題が?」
「大問題よ」

みんは腕を組み、冷ややかな視線を送る。

「プリザーブ、見てみなさい」
「……?」

二人は言われるがまま、再びステータス画面に目を落とした。

「…………」
「…………」
「……ない」
「でしょうね」
「なんで!?」

頭を抱える二人に、みんは淡々と事実を突きつける。

「セージになった時点で、ウィザードとプリーストのスキルは全部カレントで使える」
「はい」
「だからプリザーブに入れる必要がない」
「……え」
「つまり、あんたたちは」
「はい」
「プリザーブに入れるスキルを一個も持ってない状態で二次職になったのよ」
「「えええええ!?」」

マイスターになったdayuも、ブラックスミスとファーマシストのスキルがすべてカレント枠に収まってしまい、全く同じ状況だった。

みんはニヤリと笑う。

「で?」
「で?」
「プリザーブ、何に使うつもりだったの?」
「……考えてませんでした」
「でしょうね」

ぐうの音も出ない二人に、みんは呆れたようにため息をつき、再び腕を組んだ。

「アンタたち、今、二次職になったわよね。このまま戦闘になった時のことを考えなさい」
「戦闘に……」

二人の脳裏に、先日フォルドエイクの塔で経験した死闘が蘇る。
水属性のモンスターの群れに対し、えるやりょっふぃーのサポートがなければあっという間に押し切られていたギリギリの戦い。

「どう?? どんなスキルがあったら、もっと戦闘を楽に進められる?? ステータスがどう変わったら、危なくなくなる??」

みんの問いかけに、dayuと蛍は自分たちの弱点を必死に探る。

「……塔の敵の攻撃、かすっただけでも致命傷でした。もし基礎的なHPが高ければ、一撃でやられる危険が減ります」
「俺もだ。火力ばっかり気にしてたけど、前衛に立つならもっと打たれ強くなるためのパッシブスキルが必要だ」

二人が自ら導き出した答えに、みんは満足げに頷いた。

「じゃあ、それを補えるスキルを覚えればいい」
「どうやって?」
「別の職業をやるのよ」
「……別の職業?」
「ソードマン」
「え」
「HP欲しいんでしょう?」
「はい」
「じゃあ『耐久力』」
「……」
「レベル一から」
「…………」
「一から?」
「一から」

その事実に、二人の顔からスッと血の気が引いていく。
さらにdayuが、分厚い職業ツリーの資料をめくり、顔面を蒼白にさせた。

「……待ってください」
「何?」
「俺、匠を目指してるんですけど」
「知ってるわ」
「アルケミストが必要です」
「そうね」
「その前に……シェフ?」
「そうね」
「…………」
「…………」
「みんさん」
「何?」
「助けてください」
「だから来たのよ」

みんはチョークを取り出し、黒板に流れるような手つきで要項を書き殴り始めた。

「考える力はついた」
「職業も決めた」
「役割も理解した」
「――じゃあ次はレベルね」

あまりにも極端で暴力的なステップアップに、二人は思わず叫んだ。

「「順番がおかしくありませんか!?」」

「おかしくないわ」
みんは一切の表情を変えず、冷徹な事実を突きつける。

「レベル不足で装備できない」
「レベル不足でスキル取れない」
「レベル不足で職業解放されない」
「だからレベル」

極限まで無駄を削ぎ落とした効率主義者の真理。
それを見ていた先輩のりょっふぃーとえるは、苦笑いを浮かべて顔を見合わせた。

「反論できない……」
「みんさんらしいね……」

だが、二人の新人もここで引き下がるわけにはいかない。つい先日、みん自身からこってりと絞られた「あの言葉」を盾にする。

「で、でも! みんさん言ったじゃないですか! レベルは強さじゃないんですよね!?」

必死の反論。しかし、全職業・全スキルをカンストしている究極の探求者は、ニヤリと不敵に笑ってこう言い放った。

「ええ。レベルは強さじゃないわ」
「――でも、無いよりあった方がいいわ」

「「その通りなんですけどぉぉぉ!!」」

ぐうの音も出ない究極の正論に、dayuと蛍の叫び声がギルドハウスに響き渡った。




***




そこからの数日間は、まさに『地獄の超速ダイジェスト』だった。
みんは再びレベルシンクロを活用し、手加減一切なしの特攻理論で高レベルモンスターを乱獲していく。

「はい次! dayuはシェフのレベル上げるわよ! フライパンで敵を殴りなさい!」
「ひぃぃぃ! 俺のSTR極振りがフライパンで火を吹くぜえええ!」
「蛍はソードマン! レベルを上げて『耐久力』を覚えなさい!」
「で、でもソードマンだとSPが少なくて魔法が撃てませんー!」
「プリザーブにプリーストの『マナの源泉』とウィザードの魔法をセットして戦うのよ!」
「も、もう自分が何職をやってるのか分かりませんんん!」

泣き叫ぶ新人たちを引きずり回し、転職とレベリングの果てしないループを、みんは圧倒的な暴力(ハック)でゴリゴリと短縮していく。

そして――。

数日後。ギルドハウスのロビーには、ボロボロになりながらも、三次職への道を繋ぐ『二つの二次職』の基盤を完成させ、必要なプリザーブスキルをすべてかき集めた二人が倒れ伏していた。

「……終わっ……た……」
「もう、レベルアップの……ファンファーレの音が……耳から離れません……」

「ふん。まぁ、基礎工事としてはこんなもんね」
みんは満足げに頷くと、さっさと研究室へと戻っていった。

二人のステータスには、いくつもの職業を経て三次職へ至るための道筋が、ようやく形になっていた。
つい数日前まで、何をプリザーブに入れればいいのかすら分からなかった二人。

今はその画面に、必要なスキルが並んでいる。


そして――。

二人はようやく、本当のスタートラインに立った。

時を同じくして、王都の周辺ではある『不気味な噂』が囁かれ始めていた。

第16話:最適解の反復と、二次職への試練

「えるさん、危ないっ! 【ヒール】!」

フォルドエイクの塔1F。

プリーストとなった蛍の杖から、前衛で耐えるえるへと温かい回復の光が飛ぶ。
だが、彼女の役割はそれだけではない。
即座に、ウィザードから『プリザーブ(継承)』してある土属性魔法へとマナの性質を切り替えた。

「追撃します! 【ソイルスパイク】!」

「よっしゃ、俺も続くぜ! うおおおっ!」

ファーマシストとなったdayuは、極振りの腕力に任せて普段通り巨大なハンマーでモンスターの装甲をカチ割る。

そして、敵がノックバックしてできた一瞬の隙を見逃さず、腰のポーチへ手を伸ばした。

「そぉらっ! 前衛に能力バフポーション追加だぁ!」

前回の「土属性特攻」という最適解のロジックに、他職のスキルを引き継ぐ『プリザーブ』と、新しい一次職のスキルを交えたハイブリッドなレベリング。

最初は慣れないスキルの取り回しに苦労したものの、数日間の泥臭い反復練習の末、二人の動きは見違えるほど洗練されていった。


『ピロリンッ!』


心地よいファンファーレと共に、二人の頭上にレベルアップの光が降り注ぐ。

「……い、いったぁぁぁっ!! ファーマシスト、ジョブレベル40達成!!」

「私、私もです……! プリーストのジョブレベル、条件クリアしました……っ!」

煤と汗にまみれた二人は、ハイタッチをして喜びを爆発させた。これでついに、それぞれの目標であった二次職への扉が開かれたのだ。





王都の冒険者協会、特別試験場。

蛍の前に座るのは、威厳に満ちた冒険者協会長だった。

魔法使いの上位職である『セージ』への転職試験は、世界の理と歴史への深い理解を問う、厳格な口頭試問である。

「『ペレト黙示録』より問う。本文に出てくる精霊を、順番通りに並び替えよ」

「はい。土、風、水、火の順です」

蛍は緊張で杖を握る手を白くしながらも、淀みなく答える。

「よろしい。では『光と闇の知識』より。賢者が追い求めるべき深い知識は何となりえるか?」

その問いに、蛍は一瞬だけ言葉を区切った。ただの暗記じゃない。みんから教わった「力との向き合い方」そのものだ。

「……『諸刃の剣』です。正しく理解すれば『優れた力』をもたらしますが、誤れば世界の均衡を崩します。

かつて『錬金術師』ハウザーが生命の源となる鉱石を精錬するために、500人分の『人間の生贄』を求めたように……」

単体魔法に怯えていた少女はもういない。狂気的な座学と実戦で培った知識が、確かな自信を構築していた。

協会長は深く頷き、合格の印を押した。





一方、dayuが挑む『マイスター』の試験は、生産職の極致を試す過酷な実技試験だった。

まずは『精霊の木片』3つと、『光の原石』『闇の原石』を正確に持ち帰る素材収集テスト。

そして休む間もなく、4段階にわたる連続製造試験が課される。

「課題一、鉱石。課題二、述べ棒。課題三、武器。課題四、防具。正確な手順とスピードを見せてもらおう」

試験官の合図と共に、dayuは製鉄炉に火を入れた。
鉄鉱石に石炭とコッツ草を正確な分量で混ぜ合わせ、赤く染まった半溶鉄を自慢の腕力で叩き割り、冷水で一気に冷却する。
溶かした鉄を型に流し込み、冷えて固まれば素早く刻印を刻む。
さらに薄い鉄板を切り取り、ハンマーで叩いて前面に丸みを出す。
首・肩・腰回りの鉄を確認し、端を内側に丸めながら外側を整形。
各部位のパーツをリベットで留め、最後に皮ひもで固定していく。
――その時、dayuのハンマーを振るう手が、ほんの一瞬だけピタリと止まった。


(……違う。前とは違う)


以前なら、ただ腕力に任せて力一杯叩き据えていただけだった。

だが今は、鉄の温度、叩くべき角度、冷やすべきタイミングが、まるで呼吸のように自然と手に伝わってくる。

プリザーブスキルを交えた泥臭い反復が、彼の技術を無意識のうちに引き上げていたのだ。


「うおおおおおっ!」


炎と汗にまみれながら、dayuは確かな感覚と共にハンマーを振り下ろし、異常なスピードで鉄を打ち据えていった。





数時間後。

すべての試験を終え、灰と煤で真っ黒になったdayuと、極度の緊張から解放されてふらふらの蛍が、協会のロビーで合流した。

互いのボロボロの姿を見て、二人は小さく吹き出し、そして力強くハイタッチを交わした。

自らの手で、二次職という新たな扉をこじ開けた瞬間だった。

第15話:塔での答え合わせと、新たな力への試練



翌日。フォルドエイクの塔1Fは、ひんやりとした空気に包まれていた。
この階層は、水属性のモンスターがメインの狩場だ。現れたのは、茶色い体毛に覆われたサテュロスや筋肉質なミノタウロスの群れだった。


「行くぞっ! そぉらっ!!」


前衛に立つdayuが、重いハンマーをモンスターに叩きつける。STRに極振りしたその一撃は、確かな重みを持ってモンスターの体勢を崩した。


「いま……っ! 『ソイルスパイク』!」


その後方から、蛍が土属性の単体魔法を放つ。弱点をついたその攻撃はモンスターへ大ダメージを与えていった。


「ナイス連携! こっちの敵は私が引き受けるよ!」
「ヒール、いつでもいけます!」


『ロイヤルガード』のえるが大盾で残りの敵のヘイトを完璧に管理し、『アークメイジ』のりょっふぃーが的確な支援と回復で支える。
先輩たちの手厚いサポートの中、dayuと蛍が導き出した「土属性」の答えは見事に機能していた[cite: 1]。


数十分後。彼らは確かな経験値を獲得し、塔の隅で息を整えていた。


「やった……! 私たちでも、ちゃんと塔で戦えました……!」
「ああ。えるさんとりょっふぃーさんのサポートのおかげだけどな。……でも」


dayuはハンマーの柄を握りしめ、悔しそうに唇を噛んだ。蛍もまた、自分の杖を見つめて表情を曇らせる。
連携は機能した。だが、決定的に足りないものがあった。


「敵が群れで来ると、どうしても処理が追いつかない。俺の通常攻撃じゃ、足止めできても一網打尽にはできない」
「私も……。単体魔法だけじゃ、複数の敵を同時に相手にするのは無理です。私たちに必要なのは……」


二人は顔を見合わせ、同時に頷いた。


「「二次職の、範囲攻撃……!」」


現状の一次職のままでは、いずれ必ず限界が来る。
dayuが目指す二次職『マイスター』になるためには、ブラックスミスに加えてもう一つ、『ファーマシスト』の一次職レベルを上げる必要がある。
同じく、蛍が目指す二次職『セージ』になるためには、ウィザードに加えて『プリースト』の一次職を経由しなければならなかった。


「……よし、王都に戻ろう。冒険者協会で、転職(ジョブチェンジ)だ!」




王都の冒険者協会。
ジョブチェンジの申請窓口に立った二人だったが、そこで思わぬ壁にぶち当たっていた。


「レベル条件は満たしていますが……お二人とも、それぞれの『転職試験』をクリアしていただく必要があります」


受付の職員が、容赦のない事実を告げる。


「て、転職試験……!?」
「はい。dayu様が希望される『ファーマシスト』の試験は、『ファーマシスト入門』からの口頭問題です。正答率80%以上で合格となります。蛍様が希望される『プリースト』の試験は、冒険者協会長による口頭試験です。こちらは正解率90%以上が求められます」


二人は別々の部屋へと案内され、それぞれの試験に挑むことになった。




蛍の試験官は、威厳ある冒険者協会長その人だった。


「プリーストに求められるのは、知識だけではない。慈しみの心と、正しい判断力だ。では問おう。……箱を手にした少女が、孤児院のための募金を募って歩いています。あなたなら、どうしますか?」


協会長の鋭い視線に対し、蛍は迷うことなく答えた。


「少女の話を聞いてあげます。お金を渡すことも大事かもしれませんが、まずはその子がなぜ募金をしているのか、何に困っているのかを理解しようとする気持ちが大切だと思うからです」


「ふむ……。では次だ。目の前でお腹を空かして倒れている旅人がいます。どうしますか?」


「鞄に入っていた自分のパンを差し出します。ヒールでは空腹は満たせませんし、モンスターの肉が安全とは限りません。今、目の前で助けを求めている人に、自分が持っているものを差し出すのがプリーストの役割です」


次々と投げかけられる倫理や適性を問う質問。
『北地区の裏路地で、踏まれて枯れかけている花をどうするか』という問いには「踏まれないところに植え替えてあげる」と答え、『畑を荒らされたことに憤り、単身魔物の巣へ向かおうとするお爺さん』には「代わりに退治してあげる」と答えた。


蛍の根底にある優しさと、これまでの冒険で得た覚悟が、すべての回答にまっすぐな芯を通していた。


「……素晴らしい。正解率100%だ。君のような心優しいプリーストが生まれることを、協会として誇りに思う」


協会長が微笑み、合格のスタンプを押した。




「ふぅ……緊張したぁ……」


無事にプリーストへの転職を済ませた蛍は、そのまま待合室の長椅子に座ってホッと息をついた。
しかし、いくら待ってもdayuが試験室から出てこない。


(dayuくん、遅いな……。『ファーマシスト入門』の口頭問題って言ってたけど……)


待つこと、数時間。
ギィィ……と、ようやく試験室の重い扉が開いた。


「ハァ……ハァ……っ」
「ゼェ……ゼェ……」


部屋から出てきたのは、真っ白に燃え尽きたようにげっそりとしたdayuと、なぜかくたくたに疲労困憊している初老の試験官だった。


「な、なんとか……合格したぜ……ハァハァ……」
「お、お疲れ様でした……。まさか、『ファグルミの森』という単語から始まり、『ミールの乳鉢』や『クスクスの葉』、『ネーメの根』に至るまで、あそこまでヒントを出し続ける死闘になるとは……」


試験官が壁に手をつきながら、ガクリと膝を折る。
STR(腕力)にステータスを極振りしているdayuの脳筋っぷりでは、『初級薬学書・古代ファーマシスト手記』の長ったらしい単語を正確に暗記し、順番通りに答えるのは、塔のモンスターを倒すよりも遥かに過酷な試練だったのだ[cite: 10]。
しかし、そんな絶望的な暗記力でもなんとか正答率80%のラインにしがみつき、合格をもぎ取ったdayuはある意味で優秀すぎた。


「dayuくん、お疲れ様……。す、すごく頑張ったね……」
「おう……。もう二度と、薬草のパックの話なんかしたくねぇ……」


苦笑いする蛍の前で、dayuは魂の抜けたような顔で親指を立てた。


何はともあれ、これで二人は必要な一次職を手に入れた。
範囲攻撃を持つ二次職への道のりは、まだ始まったばかりだ。しかし、システムという壁と難解な暗記問題に挑み、自らの手で新たな力を掴み取った二人の足取りは、昨日よりもずっと力強く、確かなものになっていた。

第14話:もがく背中、影からの助言





nonoがみんの狂気的な探求の犠牲となり、王都の研究室で激しく揺さぶられていた頃。




王都のギルド『煌灯ノ輪』本部では、静かで、しかし確かな熱を帯びた「答え合わせ」の準備が始まっていた。
円卓に広げられた分厚いモンスター図鑑と、周辺地域のマップ。それを食い入るように見つめているのは、新人冒険者のdayuと蛍だった。


彼らの脳裏には、地底平原でみんに突きつけられた言葉が深く刻み込まれていた。


「レベルの数値は強さじゃない。本当の強さは、自分を知り、相手を知り、悩み考えた先にある」
「出た答えを試せ。自分で答え合わせをしなさい」


「……よし、決めたぞ」


沈黙を破ったのは、石板で【ブラックスミス】を宣告されたdayuだった。
生産職といっても、決して戦えないわけではない。彼は前線に立つために、必死に戦闘スキルをかき集めてきたのだ。
dayuはマップの一点を力強く指差す。


「次の目的地はここだ。『フォルドエイクの塔1F』。……rcanuさんも言ってたよな、『敵を理解しろ』って」


蛍もこくりと頷き、手元の図鑑のページをめくる。


「フォルドエイクの塔1Fは、水属性のモンスターがメインの狩場です。……もし私たちがここで戦うなら、弱点である『土属性』の武器やスキルを使用して倒すのが、理論上の最適解になります」
「ああ。俺は土属性の武器を準備する。蛍も土属性の魔法をセットしてくれ」
「はいっ。でも、俺たち二人だけじゃすぐに前線が崩れちゃうなぁ……。えるさんに壁してもらって、りょっふぃーさんに支援頼もうか」


dayuの提案に、蛍もパァッと顔を輝かせて頷いた。


二人がもがきながら導き出した、泥臭くも確かな『最適解』と連携の形。
そのやり取りを、部屋の入り口から静かに見守っていた者たちがいた。


『ロイヤルガード』のえると、三次職『アークメイジ』のりょっふぃーだ。


「……ふふっ。手がかかりそうな新人だと思ったけど、みんさんの荒療治が効いたみたいだね」
えるが頼もしそうに微笑むと、りょっふぃーも優しく頷いた。


「ああ。今回は新人を守る盾と癒やしに徹するぞ」
「ええ。彼らの『答え合わせ』……私たちがしっかり見届けましょう」


ただの空っぽの数字に甘えず、己の弱さと向き合った二人の新人。
彼らは今、本当の意味で『冒険者』としての第一歩を踏み出そうとしていた。




そして、出発を翌日に控えた夜。
静まり返ったギルドハウスの食堂で、蛍は一人、コップに入れた水を両手で包み込むようにして飲んでいた。


(明日は、ついに塔での実戦……)




「眠れないのか?」


不意に背後から声をかけられ、蛍はビクッと肩を跳ねさせた。
振り返ると、漆黒のローブを纏ったrcanuが静かに立っていた。


「あ、rcanuさん……。はい……」
「明日は塔へ行くんだろう?」


蛍がこくりと頷くと、rcanuは蛍の向かいの席に静かに腰を下ろした。


「うまくできるか心配で……。また失敗して、みんなの足を引っ張っちゃうんじゃないかって……」


消え入りそうな蛍の声に、rcanuはふっと小さく笑う。


「失敗してもいいさ。ちょっとみんなが困るくらいだ」
「えっ……!?」


予想外の軽い言葉に、蛍は目を丸くした。


「失敗することは、悪いことじゃない。……いいか、蛍。『失敗することを考えること』と、『失敗を恐れること』は違うんだ」
「考えることと、恐れること……」
「恐れて足がすくむのは、何もしないのと同じだ。だが、どうすれば失敗しないか、失敗した時にどうリカバリーするかを『考える』のは、生き残るための力になる。お前たちは今日、必死にそれを考えていただろう?」


rcanuの言葉の裏にある、不器用で温かい優しさ。


「……はいっ!」


さっきまで胸を占めていた不安はスッと軽くなり、蛍の瞳に小さな、けれど確かな決意の火が灯っていた。

第13話:【質問地獄】爆速箒と真実の扉

王都・冒険者協会の地下研究室。
バンッ!! という凄まじい音と共に、重厚な扉が乱暴に開け放たれた。


「さぁ、着いたわよ! 吐きなさい、全部!!」
「め、目が回るぅ……っ」


爆速の箒による空の旅から解放されたnonoは、床にへたり込んでぐるぐると目を回していた。
そこは、壁一面に異常な量の計算式が書かれた羊皮紙が貼られ、失敗したスフィアの残骸が散らばる、まさに狂気の探求者・みんの城だった。


みんは息をつく暇も与えず、nonoの目の前まで顔を近づける。


「半年前の『深淵なる者』との討伐戦ログを解析したけど……あなた、あの時杖も折れて魔石も砕けてたでしょ!? 媒介を失った魔法職は、システム的にただの無力な人間になるはずなの!」
「え、ええ……!? あ、あの時は皆の魔力が集まって、無我夢中だったというか……本当に分からないんです! ただ、みんなの想いが私の中で『繋がった』感覚があって……」
「想い……? 感情なんていう不確定なものが、システムの数値を上書きしたって言うの!?」


みんは呆れたようにため息をつこうとした。
みんの計算では、仲間たちから魔力を受け取ったとしても、あのような出力になるのは絶対にありえないし、通常の魔法であの光は不可能だったのだ。


しかし、床に座り込んだままのnonoは、ふと遠い記憶を探るように瞳を揺らした。


「ただ、、、声が聞こえました。あまり覚えていませんが。『詠唱しなさい』って誰かが言ったんです」


「声……? 『詠唱しなさい』……!?」


その言葉を聞いた瞬間、みんの超高速で回転するロジカルな頭脳が、雷に打たれたようにピタリと止まった。


「待って……。杖も魔石も失った『器』のない状態で、他者の魔力を受け入れ、さらに詠唱を許可した『誰かの声』があった……?」


みんの血走った瞳が、壁一面の計算式をなぞるように激しく動く。そして、何かに気づいたようにハッと息を呑んだ。


「まさか……! 私たちが当たり前のように使っている『職業(ジョブ)』というシステム自体が、本来の力を制限するための『リミッター』……防壁(枠)に過ぎないってこと!?」
「えっ? リミッター……?」


「そうよ! あなたはあの時、『星の巡りを騙る偽りの枠(システム)を壊し』と詠唱した。つまり、その『声』の主は、世界のシステムが定めた安全弁すらも飛び越えて、むき出しの魂の魔力をダイレクトに解放する【上位アクセス権】をあなたに与えた?! だから媒介なしであれだけの出力が出せた……」


「ひゃわわっ!? みんさん、揺らさないで、目が、目が回りますぅぅっ!」


興奮と驚愕で顔を紅潮させたみんは、ぐるぐると目を回しているnonoの両肩をガシッと掴んで激しく揺さぶる。
狂気的なまでに真理を求める彼女は、nonoの紡いだ言葉から、この世界が隠している『はじまりのシステム』の存在を確信したのだ。


「素晴らしいわ、nono! あなたのその『声』の主……超古代文明オルギアの真実に繋がる絶対的なエラーコードよ! ああ、もっと深いデータが必要ね。王都の図書館の奥底なら、何か記録が残っているはず……!!」


みんはnonoを解放すると、今度は取り憑かれたように猛然と羊皮紙に新たな計算式を書き殴り始めた。
取り残されたnonoは、床の上でへたり込みながら、ただただ嵐のような探求者の熱量に圧倒されるしかなかったのだった。

第12話:【75レベル上げ事件・後編】地底平原、レベルシンクロの無双

「えっ!? あぶっ!!! え???」


単身、レベル101のティクタリクの群れへ飛び込んだみんを見て、えるは悲鳴を上げかけた。
だが――すぐに、その異様な光景に気づく。

みんは、逃げているわけではない。


えるたちから50mほどの距離を保ちながら、巧みに敵の注意を惹きつけていく。
走りながら、「闘魂羅刹っ」「クォバディスっ!」、「ウィズダムブルーム」と、怒涛のバフスキルを重ね掛けしていく。
「さあ、こい」
ティクタリクの群れがみんに襲いかかる。しかし、ティクタリクの攻撃はみんには通じない。避けているからではない。あきらかに、ダメージが通っていないのだ。



「うそっ。。。どういう。。。」


えるが絶句する中、そこにみんの魔法が炸裂した。
「ソイルレインっ!」
一撃では倒れない。しかし、ティクタリクのHPゲージは恐ろしく減っている。そこへ、もう一発。
「ソイルレインっ!」
たった二発の魔法で、強大な群れがチリとなって消滅した。


その瞬間、える、りょっふぃー、dayu、蛍の四人に、膨大な経験値が入った。
本来行くはずだった初心者用の森での経験値は約20~100なのに対し、ティクタリク1匹から入ってくる経験値は16万。
次のレベルへの経験値の余剰分は切り捨てとなるため、1匹につき1しかレベルが上がらないという鬼畜仕様だが、レベル10から11の時で必要経験値1600、30から31の時で700000、70から71で40000000と跳ね上がっていく必要経験値を、みんは圧倒的な討伐速度でゴリ押していく。


その常軌を逸した光景を見つめながら、三次職のベテランであるえるとりょっふぃーは完全に唖然としていた。

「うそでしょ??壁と回復と火力、、、一人でやってる・・・」
大盾を持った手が震え、えるが呆然と呟く。
「僕たちもいつかあんな戦い方ができるようになるの??」
りょっふぃーもまた、己の魔法の常識が崩壊するのを止められなかった。


はじめこそ、みんを追いかける5匹程度だったティクタリクの群れはいつのまにか10へ、気づくと17匹へと増えていった。
蛍やdayuのレベルが上がる。
それに合わせて、レベルシンクロしているみんたちのレベルも引き上げられていく。
そのたびに、みんの戦闘能力はさらに上がった。



開始からわずか15分。


「え・・・本当にみんなレベルがあがってる・・・」
息を切らして遅れてやってきたnonoが、焼け野原となった地底平原と、一気にレベル75まで跳ね上がったメンバーたちを見て絶句した。


「やっぱりこのレベル上げは好きじゃないなぁ」
戦闘を終えたみんが、ポツリと呟く。
「好きじゃない……? どういうことですか?」
nonoが問うと、みんは振り返り、呆然と立ち尽くす新人二人に冷徹な視線を向けた。

「レベルは上がった。でも……あなたたちは、強くなった?」
その短く鋭い問いに、dayuと蛍はハッと息を呑む。

「スキルも、実際に使って、失敗して、考えて、初めて自分のものになる」
みんは一歩踏み出し、二人の目を真っ直ぐに射抜いた。
「あなたたちの強さは、なに? なんで強くなりたいの?」

重く、シリアスな空気が平原を包み込む。新人二人が沈黙し、自分の「本当の強さ」について深く悩み始めた……その1秒後。

「——よし帰ろう。約束通り、話を聞くわよっ!!」


「えっ? ひゃあっ!?」


みんは先ほどの威厳を秒で投げ捨て、満面の笑みでnonoの手をガシッと掴んだ。
そしてインベントリからマウントアイテムの『箒』を取り出すと、nonoを無理やり乗せ、凄まじいスピードで王都へとロケットスタートを切った。



「すごいっ、、、これがみんさんのスピード……(目が回る〜〜っ)」

「おい……あれ、さっき俺たちを引っ張り回してた時より、倍くらいのスピードでてないか??」


はるか彼方へ消えていく土煙を見送りながら、残された者たちはただただ立ち尽くすしかなかった。

第11話:【75レベル上げ事件・前編】泥仕合の契約と強制連行

バンッ!! と、凄まじい音を立てて執務室のドアが開け放たれた。


「だから! あの時の状況を教えてくれっ!!」
「私だってあんまり覚えてませんよーー!」


そこに立っていたのは、冒険者協会の制服を着崩した究極の探求者、みんである。その目は血走り、両手には計算式がびっしりと書き込まれた羊皮紙の束が抱えられていた。

みんはズカズカとnonoのデスクに歩み寄ると、ドンッと羊皮紙の束を叩きつける。
「覚えていることだけでいいんだっ!!」
「あ、、、それなら、たまにはみんなのレベル上げを手伝ってくださいっ!」

多忙を極めるnonoは、半ばヤケクソ気味に条件をふっかけた。
「みんなのレベルを上げてくれたら、あの時の事、全部話しますから!」
「ほぅ……いいわ。交渉成立よっ!!」
究極の研究対象を前にしたみんは、不敵な笑みを浮かべた。



一方その頃。ギルドホームのロビーでは、dayuと蛍がどこでレベルを上げるか、真面目にクエストリストと睨めっこしていた。
そこに、執務室から戻ってきたみんが魔王のような足取りでやってきた。

「お前たちっ!! レベル上げにいくよ」
「え?? 今からですか??」
「そう! ちゃっちゃと終わらせて。。。ふふ。。。ふふふふふふ」

みんの暴走は止まらない。ロビーの隅でお茶を飲んでいたえるとりょっふぃーを指差し、「お前たちもついてきなさいっ!」と有無を言わさず強制連行する。
そのカオスな様子を見ていたrcanuは、「私もついていこう」と自ら同行を決めた。

「とその前に。出発前に準備をしていくわよ」
みんは新人たちを振り返り、ビシッと指を突きつけた。
「ビッグチャンスピグリンのチケット交換してきなさい!」
「はい!」

『ビッグチャンスピグリン襲撃イベント』。
毎週末に開催されるこのイベントは、フィールドに出現した巨大なピグリンを参加者全員で攻撃して倒すというお祭り騒ぎである。
無事に討伐に成功すると、参加者には報酬として『チャンスチケット』が1体につき100枚配布される。このチケットを専用の『チャンスボックス』に指定枚数投入することで、確率で様々な有用アイテムが排出されるシステムとなっていた。

たとえば、「HPスフィア」や「SPスフィア」、あるいは「STRスフィア」や「INTスフィア」といった基礎ステータスを上げるスフィアを狙うなら1回10枚。
「〇〇属性へのダメージアップ」のような強力な特攻スフィアを狙うなら1回100枚が必要となる。
もちろん、規定枚数を入れたからといって必ずしも目当てのアイテムが出るわけではない。完全な確率(ガチャ)である。

さらに、将来的に二次職などへ転職する際に必須となる『転職許可証』――これを取得するためのモンスター素材などもここから排出されるため、全プレイヤーにとって見逃せないイベントとなっていた。

「なにと交換します??」
首を傾げる蛍に、dayuも頷く。
「何と交換すればいいかわからなくて、ずっと取っておいてあるんですよね」
「そうね。dayuはSTR、蛍はINTスフィアが出る10枚消費のボックスを回しなさい」

「はい!」と意気込む二人だったが、みんはすぐにニヤリと笑って付け加えた。

「……スフィアが出れば儲けものだけど、今の本当の狙いはそこじゃないわ。そのボックスの排出リストに入っている『経験200の書』と『熟練200の書』よ。今欲しいのは経験値バフアイテムだから、それが出るまでチケットをありったけ突っ込みなさい!」

『経験200の書』はベース経験値を、『熟練200の書』はジョブ経験値の取得量をそれぞれ200%に引き上げてくれる魔法のアイテムである。

「なるほど!いってきます!!」



そして準備を終えた彼らが連行されたのは、初心者には到底立ち入れない高レベルエリア『地底平原』。
標的は、Lv101の凶悪なモンスター『ティクタリク』である。

「私に経験値は必要ない。後ろで見ているだけだから、パーティーから外してくれ」
そう告げて、rcanuは早々にパーティーを抜け、少し離れた岩場に腰を下ろした。

残された5人でパーティーを組むが、このままではレベル差により取得経験値に補正がかかってしまう。そのため、みんたちはシステム機能である「レベルシンクロ」を使用し、意図的にステータスを新人たちに合わせた。

「装備はっと、、、、これとこれとこれね!」
みんがインベントリから特攻装備を取り出し、手早く身につけていく。

「じゃあ、私が敵を引き連れてきますっ!」
ロイヤルガードとしての役割から前に出ようとしたえるを、みんはピシャリと制した。

「え?? いいわよ。別に。ちょっと立ってなさい」
「え???」
「経験値バフアイテムは使った??準備はいい??」

みんの問いかけに、dayuと蛍が力強く頷く。
「使いました」
「おっけ!じゃあいくわよっ」

「ディバインヒールっ!」

みんは自らに持続回復スキルを掛けると、単身、ティクタリクの群れへと突入していった。
えるたちから50mほどの距離があるところで、巧みに敵の注意を惹きつけていく。

「えっ!?あぶっ!!!え???」
えるが悲鳴を上げかけるが、すぐにその異常性に気づく。

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